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Posted by - 2017.06.27,Tue
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Posted by LittKidd - 2008.11.29,Sat
新文芸坐でマキノ雅弘『殺陣師段平』。仕事を終えて、ぎりぎりで駆け込んだ。
映画の途中から、もうグズグズと鼻が鳴りだして、ラストには号泣。映画は作り物だ。そんなしかも60年くらい前の作り物に、これでもかというほど泣かされてしまう不思議。

主人公の市川段平は、一本気でこうと決めたら曲がらない、古いタイプの頑固な男。難しいことはあんまり考えない。その行動様式は、単純だが筋が通っていて強靱だ。こういう主人公、大好き。『車夫遊侠伝 喧嘩辰』の辰もそうだが、彼らはみんなバカである。愛していることやものに関して、計算や打算ということができない。嘘がつけない。そして世間は、嘘でもいいからと、利益とか効率とかそういったものばかりを求めてくる。そんなものは差し出せないから、世間とはけんかばっかりになる。だがそれゆえ、そこには真実の愛がある。段平の場合、その愛は殺陣に向けられているのだ。

インテリの沢田正二郎率いる新国劇の初の髷物となる『国定忠治』、その殺陣では、従来の歌舞伎のような型を重んじるのでない、むしろ「型のない」殺陣というものが求められていた。リアルであり、写実である剣戟。文盲で無学、古い芸道の世界でしか生きてこなかった段平には、沢田の求める「リアルな殺陣」というものがわからない。新しい芸術の世界の不可解さに、古い男が落胆し、憤り、とまどいながらも、何とか自分を変えてゆく。苦心の末に生み出した殺陣は、人気を呼び、公演を大成功させる、という結果を生んだ。

まずこの、「古い男が必死になって」というところでもうグスン、とくる。形になった殺陣、満場の拍手喝采、飛び交う声援。汽車の走るレール、新たな芝居とその殺陣の場面が、一座の引っ張りだこの成功と人気ぶりを表すためにカットバックで交互に入ってくるのだが、芝居小屋の観衆と一緒になって、大拍手を送りたい気持ちになる。演技や演出では特にそういうことが多いと思うのだが、綿密に、考え練られた理論というものを、ひとつの形にしてみせる、というのはすごく大変なことだ。ロジックをアクションへと変換するアクロバット。その過程では、こぼれ落ちてしまうものの方がきっと多い。だから、ぱっと見ただけの者には、なかなかその意図の全ては伝わらない。そこをどうにか伝えたい、というのがものづくりの醍醐味であって、その試みが成功するのを目の当たりにすることは、何かを見たり読んだり(もしくは表現したり)するうえですごく大きな喜びなのだ。そういう瞬間を写しとって、ひとつのお話としてパッケージングしていることに驚くし、とても感動する。

また段平の妻、おはるを演じる山田五十鈴が素晴らしい。夫の不遇にはともに涙を流し、喜ぶときには一緒にはしゃぐ。だからといって男にべったりなのではなく、甘やかさず、時に突き放し、叱り、でも最後には手をさしのべてくれる。これって、また別の愛の本当の姿じゃないだろうか。男権主義的だ、女性を従属的に捉えた視方だ、と言われようと、こんな女房を持った男は最高に幸せだと思う。幻想かも知れないけど、すげえいい女なんだよ、男にとって。

一度は成功した殺陣の芝居が、もう東京ではウケない、とお呼びの声のかからない段平が腐っていると、実はそうじゃなかったと、あちらの公演に改めて呼ばれることがわかる。その段平を東京に送り出すシーン、部屋を挟んで、のれんのこっちと向こうで、実はずいぶん前から体を悪くしたおはるが段平とお別れする。わざわざ部屋をまたいで言うのではない、おはるが呼ばれて玄関に行った、朗報を耳にして戻りかけて段平にそれを告げると、聞いていた段平がすでに荷物を持って立っている、それがたまたまのれんのこっちと向こうなのだ。その位置関係、のれんでお互いの顔が見えないのである。こうした人物の配置の仕方、巧すぎる…。気をつけて行っといで、と、おはるは段平の財布にお金を入れてやる。そのとき、ほろりと涙をこぼすのだ。ここで泣いちゃった。いや俺が。だってそりゃ泣いちゃうよ。めっちゃ顔色悪いんだもの五十鈴。それなのに、けなげで、愛情に溢れていて。

その後は、若干テンポを乱しながらも、段平の真っ直ぐな人生の残りを描ききって映画は終わる。クライマックスのひとたびの国定忠治、その殺陣と段平の生き方が重なって、ひとつの大きな芸術を生むラストは本当に見事。芸への愛、師弟愛、親子愛、夫婦愛。いろんな愛があり、それらを余すところなく描いた物語にマジで涙が止まりませんでした。

こんな気持ちを表す言葉なんてない。
かわりに、精一杯の拍手でお礼にならないお礼をしました。
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