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Posted by - 2017.10.22,Sun
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Posted by LittKidd - 2009.11.06,Fri
映画でなくてコミックのほうね。正直、これを正味三日程で読むのは辛かったー。

『フロム・ヘル』
作 アラン・ムーア 画 エディ・キャンベル 訳者 柳下毅一郎
みすず書房刊
http://www.fromhell.jp/

下巻、柳下さんのあとがきを読んだら、もうほかに何も言うことはない感じではあるけど…そいでもあえて個人的な感想を言わせてもらうなら、まあほんとにすごいフィクションだと思う。その世界の奥行き、強度の高い構築性はきっとまだ一読しただけではホンの片鱗しか味わえていない気がするのだけど、ちょっと一人で書いたとは思えないぐらいの多様さ、複雑で入り組んだ構成と、かと思えばあと少しで荒唐無稽なだけのプロットにも転びそうな、大胆なストーリー運び。さすが『ウォッチメン』のムーア…と言わずとも、この「凄み」は、一読すれば誰しもに伝わるんではないだろうか。

厳密には、「まったく一人で書いた」話とは言えないかもしれない。補稿〔1〕と〔2〕でも詳細に述べられているように、このシナリオはさまざまな切り裂きジャックに関する(と多分そのほかいろいろな)本から導かれた「真実」、あるいはそれらしきものを基に作られているからだ。でもどんな優れた石工だって、なんの材料や道具もなしに彫刻なり建造物を造るわけにはいかない。いうなればムーアは、いろんな時代のあちこちの場所から拾い集めた、気も遠くなるような量の煉瓦や石の欠片を積み上げ積み上げして、19世紀のロンドンに巨大な知のオベリスクを築き上げたのだ。煉瓦や石のひとつひとつはそれぞれ「事実(?)」「史実(?)」といった確かだったりあやふやだったりする、固形の、時代を彩るパーツでしかないが、恐るべきは、それらを接着するためにムーアの練った自前のモルタルだろう。それこそ、妄想力。幻視の力と言ってもいいが、それら煉瓦を高く、大きく積み上げるために、このムーアの練られた妄想が実に大きな力を発揮しているのだ。

それはもう、輝かしいほどに。

サー・ウィリアム・ガルが、「頂に至る」過程。もしくはラスト近くのアレといったあたりに、その輝きは顕著である。マジで圧倒される。これは知性とかの業ではなく、もっと暗くて力強い何かだ。印象だけを語るならそんな感じ。あたかも神と一体になったかのようなガルの独白やその心象風景は、リアルを超えた、また別の次元の現実感(あるいは非現実感)で読者を包み込んでしまう。ふと恐ろしくなって、ページから目を離さなければならなくなる…そんな場面が、読んでいるさなかに何度も訪れた。そしてまったく、そこまで物語の深部に入り込んで、妄想の粘液でべとべとにしたキャラクターを動かしているくせに、全体は恐ろしく緻密に、入り組んでいながらまったく無駄のない、しかし豊かな作品世界を構築しているのである。まるで、目を離してよくよく見てみれば、地図上のポイントポイントを結ぶ線に五芒星が顕れていたというような…視点のレベルの変化にあわせ、そういう鮮やかな仕掛けを見せてくれもする。

そうしたことを可能にする、一種の「完璧な冷静さ」をムーアは確かに備えていると思う。あるときは熱狂とともに物語に淫しているかのようにも見える彼だが、補稿〔1〕におけるページ別の注釈で、ある書物の中のひとつの証言を、こうまとめている。『彼女は本の中で…(中略)…私の直観が正しかったことを証明してくれた(部分的真実、噂話、まったくの嘘ばかりの泥沼の中で何かが正しいといえるかぎりにおいては)。』この冷ややかな突き放し方はどうだ。まあ、何が嘘でほんとかなんてわかるもんか、というスタンスであればこそ、逆にああして微に入り細を穿つような描写が可能なのかもしれない。そういう姿勢は補稿〔2〕のマンガでも炸裂していて、こちらはこちらで「このストーリーがいかに胡散臭い出所から生まれているか」を詳細にネタばらししていて爆笑モノであるし。

正直言って、これを三日で読むのは辛かった。と最初の感慨に立ち戻る。けれどものすごく楽しく、濃密な読書体験でもあった。何度も繰り返して読める作品だと思う。ストーリーの中身のほうに関して思うことは、19世紀のロンドンに生まれなくてマジで良かった、ということ。最初のヒーローはたぶん S. ホームズな僕だけど、ホワイトチャペルは勘弁して欲しい。あとは階級社会というものの強烈さ、そういうことをうっすらと感じた。

すばらしいです。感謝ス。
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